玄関ディスプレイ
娘の絵画教室の近くに玄関先に動物のプレートが置いてあるお宅がある。
その家の前を通るたびにいつも目を楽しませてもらっていた。
先日いつものように娘とその家の前を通ると、ご主人が駐車場で大量の鉢を割っていた。
通りかかる私たちに気づき、布袋さまのような笑みでこちらを見た。
あいさつを交わしたあと、私は、あっと思い出して立ち止まり、振り返って
この間、動物のプレートが素敵だったので写真を撮らせてもらいました、と言った。
すると、それは子ども用のベンチの背もたれ、と言ったあと、
持って行っていいよ、と言った。
えっ?…いいんですか…っ?!
思いがけない展開にうろたえ、(そして今思えば意味不明な)お返しに渡すものが何もないという
両手のひらを見せたわたしのジェスチャーに、
ご主人は持って行く手段がないと解したのか、
うち遠いの?…いつでもいいから持ってっていいから、
と言った。
ええっ?…いや、今、もらっていきます!
(今度なんて言ってたらその日はもうないと思うの!)
…ホントにいいんですね?念を押す。
持ちあげると重い。すごく、重い。
いや大丈夫です、すぐそこに車あるんで。
丁重にお礼を言い、足早にその場を離れた。
本当に重い。10キロ…はないと思うがそれほどまでに。
唐草模様のほっかむりをしているような気分に若干なりつつ、
角を曲がるときに振り返って見る。
ついさっきまでそこにあったプレートはなくなっていた。
コンクリートの壁が妙にすっきりとしていた。
手に入れてしまった異様な興奮のなか、ふとホントにこれでいいのか?という違和感を覚えつつ、その気持ちを振り払うように車まで急いだ。
在りし日の動物たちのディスプレイ
さっそく自宅の玄関扉脇に置いてみた。
最初のうちは借り物のような彼らも、数日たって我が家に馴染んできた。
よしよし。いい感じだ。そうだ。これはもうぼくのものだ。
そういって含み笑いを浮かべてみる…が、手放しでは喜べず、
君はここにいて本当に幸せかい?
などと心のなかで問うてみたりする。
もう少しここに置いてみようかな。いつまでたってもしっくりこなかったら、やっぱりあそこがふさわしい場所だと思ったら、そのときはお返ししに行こうと思う。
優柔不断なわたしのそばでもいつかここにいるのが自然に感じられるときが来るかもしれないし。
しばらく、悩みながら楽しませてもらおうと思います。